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2012年第1回定例会 「杉並区基本構想」に対する意見開陳(全文)

 日本共産党杉並区議団を代表して、議案第1号杉並区基本構想について反対の意見を述べます。
 基本構想答申の策定にあたり、1年間にわたる審議会委員による熱心な議論に敬意を表するものです。しかしながら、むしろそうした委員一人一人の意見がなかなか答申に反映されず、一方で区長の政治的思惑が色濃く反映された内容になっているといわざるを得ません。
 まず、審議会でも口々に語られた区民の切実な実態が記されていません。保育園に子どもを入れられず泣きながら窓口で訴える若い親たち。老々介護で家の中が地獄だと訴える高齢者、障がい者のいる家庭の将来への強い不安など、こうした実態を背景として盛り込めなかったことが、全体に緊張感にかける内容となりました。
 本来、基本構想とは、自治体の憲法的役割をもち、めざす将来像と目標を定め、実現するための基本的理念を示すものです。区は、国とともに、憲法25条で定められた「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」義務を区民に負っています。理念には、まず「区民福祉の向上」という区の責務が明確に掲げられなければなりません。しかし、今回提案された基本構想では「区民福祉の向上」という区の責務が欠落し、支えあいがことさら強調され、「参加」や「協働」の名のもとに、行政の仕事を区民や企業も含む民間団体等に委ねる方向となっています。審議会が行ったパブリックコメントでも「区民のくらし・福祉を守るという区の責任・役割が見えない」という主旨の意見が多数ありました。質疑の中で「行政としての責任を果たすことは大前提としつつ、すべて区だけでサービスを提供していける時代ではない」という答弁がありましたが、区の責務を曖昧にするもので認められません。
 区民の区政への参加や協働は重要ですが、構想で述べられている「参加」や「協働」は、言葉本来の住民自治を強めるという意味をゆがめ、公共の仕事を住民に肩代わりさせる「新しい公共」を表したものといわざるをえません。区長は就任後の所信表明で「これからは新しい公共の発想が重要になる」と述べ、民間団体、民間企業の活力を積極的に活用する方針を示しました。「新しい公共」の経営原理は、あくまでも効率化と安上がり化です。前区政時代から「協働」の名のもと、コスト削減を目的に企業等への業務委託で「官製ワーキングプア」問題が引き起こされてきました。さらなる営利企業の参入は、公共サービスを市場化へとつなげ、いきつくところ区民サービスの質の低下をまねくものであります。セシオン事件を引き起こしたこれまでの区政を踏襲する内容で認められません。
 「住宅都市杉並の価値を高める」という理念があげられましたが、その内容に強い疑問を持たざるをえません。これまでも杉並区は「良好な住宅都市」といわれてきました。これを維持していくには環境破壊を防ぐ歯止めが必要です。現基本構想には「無秩序な乱開発を防ぐ」ことが明記されています。しかし、今回の「構想」ではその記述が取り払われ、逆に「利便性が高く快適な都市機能の整備」として都市計画道路の整備や、駅周辺整備が強調されています。なかでも、荻窪駅周辺まちづくりが重点的な取り組みに掲げられたことは問題です。審議会が行ったパブリックコメントでも、荻窪駅周辺整備については「具体的な開発案件であり、記述を削除するよう求める」意見が多数寄せられていました。重点的な取り組みにするとしても、まちづくり基本方針などで位置付けるべきです。区民合意となっていない事業を基本構想に盛り込むことは問題であり賛同できません。全体として、これまでとは異なる開発優先のまちづくりを目指すのでないか危惧されます。「質の高い住宅都市」というなら、乱開発を防ぎ、地域ごとの介護や保育、教育施設の整備拡充こそ、第一に据えるべきです。
 基本構想の「課題」に「少子高齢化の一層の進展」があげられています。しかし、その要因やどう克服していくのかの深い分析がありません。さらに10年前と比べ、2,7倍にも増えている1900人にのぼる特養ホーム待機者の問題や保育園待機児対策、貧困化対策など、区民がおかれている現状の把握・分析が不十分で、福祉や介護、医療分野を充実させる姿勢がありません。介護では、もっぱら「地域の中で、在宅で」が優先されています。社会問題となっている保育所の待機児童問題についての言及もなく、「幼保一体化を含む保育施策」という記述のみです。幼保一体化については、乳幼児期の保育や教育のあり方の議論もなく、現場の先生や保護者の理解も合意も得られていないものです。こうした批判的な施策を盛り込むことは認められません。
 教育の分野では、なによりも国連子どもの権利委員会から幾度も勧告を受けている「高度に競争的な教育制度が、子どもたちにストレスを与え発達に障がいをもたらしている」という認識を持たなければなりません。しかし、ここでも、子どもを取り巻いている様々な困難についての分析や克服の道筋が示されていません。「学びへの切れ目のない支援」が重点的な取り組みにあげられていますが、質疑の中で「小中一貫教育」も含んでいることが明らかになりました。批判の多い教育施策を現場に押し付けるもので、認められません。
 今後、多くの区立施設が更新時期を迎え、改築や改修に経費がかかるため、「区立施設の再編整備」をすすめるとしています。効率的な運用、利便性の向上、街の活性化を視点に検討するといいますが、区立施設は、それぞれに経緯や歴史もあり、区民サービスにおいても、地域のコミュニティづくりにおいても重要な役割を担ってきました。区立施設のあり方については、地域ごとにいかに維持発展させるかを前提にすべきですが、財政削減先にありきで施設の統廃合が進められていく危険性を指摘するものです。
 厳しい財政論をことさら強調しますが、当区の財政は経常収支比率など各財政指標からみても極めて健全性を有しています。むしろ、保育や介護に苦しむ区民の実態からみれば、緊縮財政論を区民に押しつけすぎといわざるをえません。減税自治体構想なきあと、杉並区には、福祉ニーズに応える力が十分あります。本議案には反対しますが、今後の区民本位の区政実現を強く要望し、意見開陳を終わります。