2012年第2回定例会 一般質問「防災対策について」(全文)
日本共産党杉並区議団を代表して、防災対策について質問します。
(1)被害想定
(想定の基本的視点)
東京を直撃する地震の危険性が切迫するなか、多くの区民が自ら備蓄などの取り組みを強めるとともに、区の防災対策への関心を高めています。
4月、東京都が東京湾北部地震と多摩直下地震の想定をよりきびしく見直すとともに、新たに元禄型関東地震および立川断層帯地震を被害想定の対象としました。 中央防災会議も防災対策推進検討会議の中間報告では、「災害を完璧に予想することはできなくても、災害への対応に想定外はあってはならない。楽観的な想定ではなく、悲観的な想定を行うべき」と指摘しています。
東日本大震災を経験し、最大、最悪の事態を想定し、その被害を軽減するためのハード、ソフトの対策をとる重要性が浮き彫りとなるなか、杉並区としても被害想定を含めた地域防災計画の見直しは必至の状況です。
質問 区は被害想定の見直しにあたって、東日本大震災の教訓から何を学び、いかすのか、見解を求めます。
(都の想定は不十分、区の実態に即した被害想定を)
都の定量的想定は、一定の条件のもとでの推定にすぎず、絶対化固定化すべきではありません。この点で、わが党は、都議会でも、被害を小さく見ている問題点を指摘しました。
たとえば、火災の被害では、前回の被害想定では最大風速を15メートルとしていましたが、今回は8メートルに下げました。火災による焼失棟数と死者数についても、無風状態だった阪神淡路大震災で、焼失棟数100棟あたりの死者数は5人〜6人だったのに、都の想定では杉並の場合100棟当たり1〜2人との結果になっています。これには専門家からも疑問の声があがっています。都の想定をうのみにするのでなく、区としても独自に検討する必要があると考えます。
被害想定は、一種の震災影響評価・アセスメントであり、被害を軽減するために必要な防災施策や、社会的経済的な効果を推量するうえで有効な手法といわれています。それだけに、杉並の実態に即した分析が重要です。
質問 区としては、区の被害想定はどうあるべきと考えているのでしょうか。都の想定を機械的に引き写すのでなく、地質、火災などの専門家や消防署などの協力を得て、杉並区としての被害想定を策定すべきと考えますが、見解を問うものです。
(2)最大、最悪の事態を想定して
都の被害想定の数値は絶対的なものではありません。しかし、最新の調査、研究によって、地震が、従来より強くなることを想定した対策が求められていると思います。東京湾北部地震の場合、フィリピンプレートが10キロ浅いことが判明し、その結果地震の震度も強くなる地域が広がるとの発表がありました。杉並区の想定震度は現在一律震度6弱ですが、今回の都の想定では約53%が震度6強と推定されました。しかし震源地がどこになるかによって、震度分布もかわります。震源地が区部西部だったら、震度6強の地域は区内全域に広がる可能性があります。震度7もあるかも知れません。
質問 都の震度分布を絶対化、固定化するのでなく、公共建築物の整備にあたっては、震度6強はもちろん、震度7にも対応しうる耐震化をめざすべきと考えますが、区の見解をうかがいます。
杉並区が、3年間の実行計画で防災まちづくりに要する事業経費を、これまでの計画の3,5倍の規模としたことは評価いたします。さらに、被害を限りなく少なくし、区民の生命と財産をまもりぬくために、力を尽くすよう求めるものです。
そうした立場から、以下、具体的な区の支援策について質問します。
(3)耐震化、耐震改修助成
(耐震化の現状と到達)
まず、耐震化についてです。
震災対策で最も重要なことは、被害を最小限に食い止める「予防第一」の原則を貫くことです。阪神淡路大震災や東日本大震災などを通じ、「せめて命だけでも助かればいい」という風潮が強まってますが、災害対策基本法は、「国土並びに国民の生命、身体、とともに、財産を災害から保護することを国や地方自治体の責務として定めています。それは、命を守ることはもとより、施設が倒壊・損傷したり、住居や店舗などの財産を失えば、くらしも地域経済も立て直しがきわめて困難になるからにほかならないからです。この観点から、建物の耐震化・不燃化の促進は引き続き重要です。
質問 杉並区の全建築物の耐震化は昨年79%に到達しました。うち区立施設は97,2%です。病院などの民間建築物の耐震化はどこまで到達しているのでしょうか。区は、2015年度までに区内全建築物の90%以上の耐震化を目指していますが、今後の推移をどう考えているのかうかがいます。
(住宅の耐震化)
区は、住宅の耐震化を促進するために、耐震改修に要した費用の半額100万円まで助成。さらに耐震強度を示す指標IW値が1,0以下の場合にも減額して助成し、十分な効果を発揮しているとこれまで答弁しています。たしかに他の自治体より手厚く行い、進んでいる部分もあります。しかし、実際、木造住宅の高齢者に話を聞くと、「倒れたらし方がない」など、なかなか耐震化に踏み出せないのが実態です。だからといって、耐震化は所有者の自己責任という考え方では、災害に強いまちづくりは進みません。
質問 耐震化促進のためには、対象となる住宅に住んでいる人に積極的に助成制度の紹介をするなど、利用を促す対策を考えるべきですがいかがでしょうか。さらに低所得者への助成限度額の引き上げも求めますがどうでしょうか。
東日本大震災では、区内でもブロック塀や大谷石の塀が多数倒壊するなどの被害が出ました。避難や消化活動を円滑に行うためにも、これらの安全対策が必要ですが、どう取り組んでいくのか、うかがいます。
(4)火災対策
(住宅の不燃化、難燃化)
次に、火災対策についてお聞きします。
杉並区の場合、木造住宅密集地域があり、狭い道路も多く、燃焼速度は23区でもっとも早いと推計されています。それだけに火災対策はとりわけ重要課題であり、抜本的強化が必要です。
今年度から震災救援所となる小中学校周辺等の不燃化促進として、耐火建築物については250万円、準耐火建築物については100万円の建て替え助成がスタートしました。
質問 これまでの利用実績の状況をうかがいます。
不燃化・難燃化の支援として重要な前進と評価するものですが、震災救援所周辺などの地域に限定されています。対象地域を拡大すべきと考えますがいかがでしょうか。
この制度は、住宅の全面建て替えによる耐火建築への支援となっていて、建て替えを予定している区民には大変役立つ制度ですが、経済的に建て替えが困難な世帯には役立ちません。
質問 墨田区では、高齢化がすすみ、耐火建築への建替えが困難ななかで、高齢者、低所得者でも改修に取り組める壁面や窓、軒裏など、部分的耐火改修に一律100万円の助成を今年度から始めました。部分的であっても燃え広がる時間を遅らせ、効果があると専門家によって分析されています。こうした事例も参考にし、部分不燃化助成を検討すべきと考えますがいかがでしょうか。
(火を出さない対策)
地震の振動による対策はとっていても、地震後の火災対策が不十分な場合、火災をまねく危険があります。阪神淡路をはじめ過去の火災原因では、地震発生後、停電になり、ブレーカーを切らなかったために、自動的に電気が復旧した際、室内に残っていたガスによって発火するケースが一番多いといもいわれています。分電盤の主ブレーカーを切ることが大切ですが、最近では、地震が起きた時に設定以上の揺れを感知すると自動的に電気を遮断する感震ブレーカーも開発されています。
質問 こうした火災を起こさない対策への支援をどう考えているのでしょうか。地震によって切れた電気が、自動的に復旧しない感震ブレーカーなどの普及も進めるべきではないでしょうか。また、地域防災計画には、高齢者等への自動消火装置の普及とありますが、到達と今後の対応をどうするのか、うかがいます。
(地域の初期消火の強化を)
不燃化対策とともに、地域の初期消火体制の強化も重要です。都の被害想定では杉並区内の出火件数は37件で消防団の分団数を上回っています。東京消防庁の資料でも、杉並区荻窪周辺地域について、活動困難地域が広く、現状で配置されている軽可搬ポンプだけでは対応は困難とされています。
現在、区内で軽可搬ポンプがある自主防災組織は145となっています。消火栓からポンプをはさまずに直接水を引け、比較的扱い方が簡単なスタンドパイプは昨年から震災救援所に設置されました。自主消防組織の強化とともに、消防水利、消防資機材の配備、日常の訓練が重要となっています。
質問 軽可搬ポンプとともに、スタンドパイプを自主消防組織に普及し、訓練を強化すべきと考えますがいかがでしょうか。
災害時に、初期消火活動や機敏な救助活動など、初動段階で地域住民が果たす役割はきわめて重要です。災害対策基本法第5条では「市町村長は、住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織の充実を図り、市町村の有するすべての機能を十分に発揮するように努めなければならない」として、「自主防災組織の充実」を自治体に義務付けています。
杉並の自主防災組織は164ありますが、震災以降、増える傾向にはありません。古くからの防災組織が解散し、その代わりにマンション群の防災組織が増加し、差し引きで現状維持の数字になっています。多くの防災組織が構成員の高齢化、リーダー不足寄りばかりで訓練ができない。ポンプもだせない」といった声が多数聞かれます。実質的な能力は極端に低下し、防災力としては非常に困難な実態です。地域防災力の重要性や必要性はだれもが認めるところですが、住民側にしてみれば、気苦労が多く時間が割かれる、自分たちでは何もできないなど、参加には消極的です。しかし、これも当然の理由ともいえます。若年層や、退職直後のシニア世代などが積極的に参加するよう、区としても促進策が必要と考えます。
こうした防災組織の現状を、区は把握しているのでしょうか。数年前までは、地域の区民センターなどで、周辺の防災組織責任者と懇談会を定期開催し、実態把握に努めていたが、ここ数年はそれもなくなり、書類上のやり取りになってきたと聞いています。地域の実情に沿った行政の支援を拡充することが求められます。
質問 各防災組織ごとにどのような課題やニーズ、地域的な特性があるのかなどの聞き取り調査を行うことや、かつて行っていた懇談会を復活させるべきと考えますがどうでしょうか。さらに、自主防災組織にたいし、職員が分担して援助する体制も検討してはどうかと考えますが、いかがでしょうか。
(延焼シュミレーションによる地域ごとの対策を)
さて、延焼をふせぎ、適切な消火活動をすすめるためには、地域の特性やまちの実態に即した個別対策が重要となります。
質問 消防署の協力を得て、延焼を防ぎ、遅らせるうえで、地域ごとに延焼シュミレーションを示し、何が必要かを浮き彫りにし、対策をとっていくことを強化すべきと思いますが、どうでしょうか。
住民ひとりひとりの防災意識を高めるには、自分たちの住むまちの特徴と災害危険の関係を知ってもらうことではないでしょうか。各地で、消防団、自治会や防災組織、住民、民生委員、行政の職員が参加し、地震や風水害が起きた場合に想定される被害や防災上の危険個所、防災施設などを地区ごとの地図に落とし込んだ「地区別防災カルテ」を作成する取り組みが増えています。カルテを作成したところでは、市民自らが調査を行い、懇談会で意見交換をしたことで、コミュニティの醸成にもつながり、災害時要援護者対策にも悩む民生委員の不安軽減、防災組織結成の機運の高まり、消防団活動への理解の深まりなど、有意義な事業になったと評価されています。
質問 杉並区でも、他の自治体の取り組みを参考に、地区別防災カルテの作成に取り組んでみてはいかがでしょうか。
(5)災害時要援護者対策
最後に災害時要援護者対策についてお聞きします。
東日本大震災でも亡くなった人の半数は60歳以上でした。それだけに高齢者など災害時要援護者対策が重要な課題となっています。障害者団体からも対策を強めてほしいと要望があがっています。
杉並区は、要介護の高齢者、障害者、難病患者、災害時に支援を希望する人を対象に、「地域のたすけあいネットワーク」の構築に取り組んでいます。現在、登録対象数2万3452人に対し、登録した人は8,327人です。さらに、個別の支援プラン策定が住んでいる人は5,964人、そのうち支援者が決まっているのは660人となっています。
要援護者対策の遅れはどこの自治体でも大きな課題となっていますが、切迫した事態のもとで、高齢者や障害者は不安を高めており、早急な取り組みが求められています。
質問 登録対象者約23,000人に対し、名簿化された数は約8,000人にとどまっています。積極的に本人の同意を得て名簿化をすすめるべきではないでしょうか。
名簿登録とともに、個別の支援プランの策定、支援者の確保は大きく遅れています。さらに、避難しなかった場合の安否確認ルートをどうするのか等の課題もあります。たすけあいネットワークだけでは限界があるのではないでしょうか。世田谷区では、通所施設が情報提供するシステムを構築しています。
質問 ボランティアの確保、障害者団体の情報網や福祉施設の連絡網、さらに、日ごろから要援護者の状況を把握している介護事業者と連携したネットワークを構築するなど、重層的に取り組むべきと考えます。見解をうかがって、私の質問を終わります。